日常にひそむ “地元のイチオシ” を描く
キャンパスアートアワード2025 最終審査レポート
全国の中学生・高校生が「地元のイチオシ」を自由に描き、グランプリ作品がキャンパスノートの表紙を飾る――。絵を描く喜びを通して若い世代の自己表現を応援する「キャンパスアートアワード」が、2025年で11回目を迎えました。主催はコクヨと読売中高生新聞(発行所:読売新聞東京本社)。文部科学省と観光庁の後援のもと、全国規模で開催される絵画コンテストです。
応募は公式ホームページよりエントリーします。今年の募集期間は2025年6月2日から9月9日でした。テーマは例年と同じく「My Sweet Home Town〜地元のイチオシ」。全国から3,045点の応募が集まり、地元の風景や文化、食べ物、行事、人々などから、暮らしの中に息づく「私が感じた地元の魅力」を取り上げた作品が多く寄せられました。「テーマの深まり」や「表現の成熟」が感じられる年となりました。

選ぶことの難しさ、見ることの喜び
応募作品は全国6地区に分けた審査にて、中学生部門・高校生部門で各地域よりそれぞれ3点ずつ、合計36点が入選となります。10月23日、読売新聞東京本社(東京都千代田区大手町)において最終審査が行われ、グランプリ(1点)、準グランプリである読売中高生新聞賞(1点)・コクヨ賞(1点)、審査員特別賞(3点)、地区優秀賞(6点)が決定しました。

審査員は、8回目となる色鉛筆画家の林亮太さん、5回目となるイラストレーターで漫画家、音楽家でもある中村佑介さん、3回目となるお笑いコンビ南海キャンディーズのしずちゃん。それぞれ異なる表現世界を持つ三人が、全国から集まった入選作品を前に真剣に議論を重ねました。

林さんは、「今年は色の使い方や画面構成に成熟を感じます。中高生ならではの新鮮さに、観察の鋭さが加わってきた印象」と語り、中村さんは「自分の地元を描くという行為が、単なる風景の再現ではなく、"どう見て、どう伝えるか"という意識に変わってきている」と口にします。一方、しずちゃんは「どの絵にも、描く楽しさが伝わってくる。何がグランプリになるかわからないのがこのコンテストのおもしろさ」と笑顔を見せました。
結果発表

グランプリは独自性が光る「日常の中の非日常」

グランプリに輝いたのは、中部地区・福井県の中学3年生、原 翼紗(はら つばさ)さんの「日常の中の非日常」でした。恐竜を福井県のシンボルに据えながら、のどかな町並みと青空を描いた作品です。鮮やかな色彩と確かな構図で、見る者を思わず立ち止まらせる力をもっています。「日常の風景を題材にしながら、光と影のコントラスト、画面構成、色の配置まで緻密に計算されている。そこに描くことそのものを楽しむ筆の勢いが加わり、見る人を引き込む魅力が生まれている」と高く評価されました。原さんは昨年、「福井といえばの頂上決戦」で恐竜を描き、準グランプリの読売中高生新聞賞を受賞しています。
準グランプリは「黒房」と「現代蹴鞠 埼玉ver」

準グランプリの「読売中高生新聞賞」は、近畿地区・大阪府の高校3年生、小森瑛太(こもり えいた)さんの「黒房」でした。黒の重なりと金の輝きが際立つ力強い日本画で表現しています。「構図と技術が圧倒的です。300年の伝統を持つ祭りの迫力を画面いっぱいに表現していて見事」と審査員は口にします。

同じく準グランプリ「コクヨ賞」は、関東地区・埼玉県の中学3年生、佐藤実礼(さとう みれい)さんの「現代蹴鞠 埼玉ver」でした。埼玉の伝統と産業、スポーツを融合させた、ユーモアあふれる一枚です。ひな人形や埼玉スタジアム、里芋やネギなど、県を象徴するモチーフを軽やかに描きながら、色の対比と線のリズムで独特の世界をつくり上げています。「自分の街の魅力を伝えること。それをいちばん楽しげにやっている」「自由でいいなあと思います」という声があがりました。
——グランプリ作品「日常の中の非日常」について、選ばれた理由を教えてください。

中村さん:作者は昨年、カニと恐竜を描き、準グランプリを受賞しています。今年は大胆に恐竜だけで勝負した。表現に自信がついたことが伝わってきます。自信がないとモチーフが増えてしまうものですが、わずか一年でその境地に達したことに感動しました。作品が「自分の絵」になっている。廃屋のような建物と恐竜を対比させていて、誰もいなくなった街に恐竜が生きているような、独特のストーリーが感じられます。空間の中に時間が流れている。その「間」の取り方に成熟を感じました。
林さん:恐竜という強いモチーフを描きながら、決して押しつけがましくなく、画面全体に静けさを保っています。恐竜という題材のスケールの大きさと、身近な風景の親しみやすさがうまく両立していると思いました。構図がしっかりしていて、遠くの空まで描かれているのに、見る人の視線が自然に一点に集まる。非常に完成度が高い作品です。色づかいにも迷いがなく、筆づかいも落ち着いています。こういう「静かな迫力」のある絵は珍しい。何度見ても飽きない。グランプリにふさわしい作品です。
しずちゃん:私、この作品がすごく好きです。恐竜の質感がすごく丁寧に描かれていて、光の当たり方とか、ウロコの部分とか、ちゃんと「生きている」感じが伝わってきます。それに、普通の建物とか、何気ない街の風景の中に恐竜がいるという、その発想がおもしろい。「いるはずのないものをそこに描く」のは夢があってロマンがある。絵全体がやさしい色でまとまっていて、見ていると穏やかな気持ちになります。この作品から「描くのが楽しい」っていう気持ちが伝わってきました。
——読売中高生新聞賞「黒房」は、いかがでしょうか?

中村さん:この作品は構図が圧倒的です。ふとん太鼓の迫力がそのまま伝わってきますね。祭りのエネルギーを、真正面から描いているのがいい。ただ力強いだけでなく、黒を主体にした中で金や朱をどう置くか、そこにちゃんと考えがあります。伝統行事を題材にしても、古くさくならず、現代の感覚で描いているのが見事です。しかもこれだけ密度があるのに、窮屈さを感じない。筆づかいが自由で、筆圧のコントロールもうまい。「黒」という難しい色を主役にして成功させているのはすごいことです。
林さん:私はこの作品を見てまず「黒の美しさ」に惹かれました。黒の中にある階調が豊かで、重なりの深さで質感を出している。墨のような部分と油絵的な厚みのある部分とが共存していて、画面の中に空気の層を感じます。太鼓の装飾の細やかさや、房の揺れの表現もよく観察されています。300年の伝統を持つ祭りの荘厳さを、若い感性で堂々と描いているのがすばらしいと思いました。ただ、背景にもう少し光を入れると、主題がより引き立ったかもしれません。それでも全体の完成度は非常に高く、このままポスターにしても映えると思います。
しずちゃん:この絵を見てすぐ「音が聞こえる」と思いました。太鼓の「ドン、ドン」という音と、人のかけ声、祭りの熱気が伝わってきます。ふとん太鼓は実際に見たことがないけれど、この絵を見たら「行ってみたい」と思うでしょう。描くのが大変そうな題材を、ここまで堂々と描ききっているのがすごい。最後まで集中して描いた感じが伝わってきます。
——コクヨ賞「現代蹴鞠 埼玉ver」はいかがでしょうか?

中村さん:発想と構成は群を抜いていました。このコンテストは「絵のうまさグランプリ」ではなく、地元の魅力をどう伝えるかが主題です。埼玉は「何もない」と言われることもありますが、作者はひな人形とサッカースタジアムを組み合わせて、住む人の目線で楽しげに地元を描いた。惜しいのは細部の仕上げで、手前のサッカーボールやひな人形など、もう一段、丁寧に仕上げていたら、グランプリにも届いたと思います。
林さん:この作品を最初に見たとき、とても印象に残りました。アイデアがいいですね。蹴鞠という伝統的な題材とサッカースタジアムを組み合わせる発想がおもしろい。色づかいにも工夫があって、明るく、楽しさが伝わってきます。前のボールの陰影や、人物の体の向きなど、もう少し観察して描けば、さらに完成度が上がったと思います。それでも発想力と構図のバランスはとても良い。来年が楽しみです。
しずちゃん:私はこのタイトルを見た瞬間に笑ってしまいました。「現代蹴鞠 埼玉ver」って、なんておもしろい発想なんだろうと。しかも、ちゃんと絵として成立しているのがすごい。サッカーもひな人形も、それぞれの良さを残しながら描かれていて、見ていて楽しくなります。ちょっと雑なところもあるけど、そこがまた人間味があっていい。思いきって自分の好きなものを組み合わせた勇気がすばらしいです。
審査員特別賞

林亮太賞 愛知県 高校1年生 渋谷歩乃佳(しぶや ほのか)さん「jumping 土管坂」

林さん:常滑市の土管坂という場所の特徴をしっかり捉えていますね。土管の丸い形と坂の曲線をうまく利用して、見る人の視線が自然に動く構図になっています。猫がジャンプしている瞬間の軽やかさもよく表現されています。土管の質感、レンガの温もりも伝わってきます。色づかいに明るさがあり、地元への愛情を感じました。
中村佑介賞 高知県 中学2年生 早岡佐納(はやおか さな)さん「青銅豊かな追手門」

中村さん:錆びた青緑の使い方がとても印象的です。歴史ある重厚な題材を、独自の視点と色の幅で、やわらかく描けているのがすばらしいです。それだけに終わらず金できちんと気品も表現されています。
しずちゃん賞 青森県 中学3年生 山本はぐみ(やまもとはぐみ)さん「夜の葛藤」

しずちゃん:見た瞬間に「かっこいい!」と思いました。ねぶたとマグロを組み合わせるという発想がすばらしいです。夜の光の表現がきれいで、迫力がありますね。背景の星のきらめきも印象的で、見ていてドキドキしました。絵からエネルギーを感じます。
地区優秀賞6作品について、審査員からのコメントをご紹介します。
北海道・東北地区 北海道 高校3年生 井上結月(いのうえ ゆづき)さん「いつもの冬」

中村さん:雪という「無音の世界」の中に、見えない音を描こうとしているのがすばらしいです。キタキツネの足跡に物語があり、寒さではなく温かさが伝わる。色彩のコントロールが巧みで、構図も落ち着いています。
林さん:白の中にこれほど多くの色が潜んでいることを、よく観察して描いていますね。雪の表面や空の青のグラデーションがとても自然で、筆づかいにも呼吸を感じます。北海道の冬の静けさがそのまま画面に漂っています。
しずちゃん:静かなのに、ちゃんと生命を感じる絵ですね。雪の白の中に、やさしい色がいっぱい入っていて、ずっと見ていたくなります。冬の北海道が大好きなんだなという気持ちが伝わってきました。
関東地区 東京都 高校2年生 本多叶歩(ほんだ かほ)さん「空飛ぶペンギン」

中村さん:ペンギンというモチーフを選んでも、ただかわいく描いて終わっていない。光の反射を計算して、しっかりデザインとして成立しています。構図の切り取り方にもセンスを感じます。
林さん:見上げる構図がとてもよく効いています。ペンギンの動きが流れるようで、透明感のある青の重なりが美しい。水中の光をここまで感じさせる表現力は見事ですね。
しずちゃん:すごく気持ちのいい絵です。空を飛んでいるみたいに見えるペンギンたちが楽しそうで、見ているほうも元気になります。「初めて見た感動」がちゃんと伝わってきました。
中部地区 愛知県 中学2年生 木村鳴海(きむら なるみ)さん「絞りとでら盛り幸せ名古屋パフェ」

中村さん:見ていて楽しい。画面の中に動きがあって、食べ物の光沢や質感がよく出ています。発想が自由で、絵を描く喜びがそのまま伝わります。
林さん:モチーフの選び方がおもしろいですね。伝統の絞り染めとスイーツという、まったく違うものを軽やかにまとめている。色づかいのセンスがあり、リズム感のある構図です。
しずちゃん:色がすごくかわいいですね。絞り染めの模様もパフェのクリームも、全部おいしそうで楽しい。名古屋の元気さが感じられるハッピーな絵です。
近畿地区 京都府 高校2年生 中路侑花(なかじ ゆうか)さん「舞妓さん」

中村さん:モチーフを絞って主役を立てる構成がうまい。柄や飾り、石畳の描写が繊細でカランコロンと音が聞こえてきます。全体に安定感があり、完成度が高いですね。
林さん:落ち着いた色調で、とても上品です。舞妓さんの所作や姿勢をよく観察していて、伝統文化への敬意が感じられます。
しずちゃん:歩くときの下駄の音が聞こえてきそうです。色も落ち着いていて、優雅でやさしい。京都の街の空気まで感じます。
中国・四国地区 香川県 高校2年生 宮﨑淑(みやざき しゅく)さん「志々島の大楠」

中村さん:大樹を正面から描くという選択が潔い。緑の階調の豊かさ、葉の重なり方がとても繊細で、静けさの中に力強さがあります。
林さん:幹の太さや根の張り方など、木の生命力をよく描いています。光の入り方がすばらしく、自然への憧憬を感じます。
しずちゃん:この絵を見ると癒やされます。光の中に立っているような感じで、木の温かさが伝わってきます。「ずっと元気でいてね」という気持ちを感じました。
九州地区 佐賀県 中学1年生 奥村京(おくむら けい)さん「イカフライ!!」

中村さん:「イカフライ」と「フライ(飛ぶ)」をかけるユーモアが秀逸ですね。描き込みの粗さを超える勢いがある。発想にスピード感があり、見ていて笑顔になります。
林さん:とても自由で楽しい発想です。イカを宇宙に飛ばすという大胆なアイデアを、ここまでのびのびと描けるのは中学生ならでは。色づかいにもセンスがあります。
しずちゃん:イカが本当に楽しそうに飛んでいます!背景の色もきれいで、見ていると元気が出ます。こういう自由な絵があると会場が明るくなりますね。
——今年の最終選考を終え、総評をお聞かせください。
中村さん:年々、作品のレベルが上がっています。写実やデッサンの技術を超えて、「自分はこう見た」「こう感じた」という意思が伝わる作品が多かった。地元を題材にすることは、他人と比べることではなく、自分の足元を見つめることにつながる。だからこそ、描くことが楽しい。そんな前向きなエネルギーが今年は特に感じられました。

林さん:このコンテストをきっかけに、美術の道へ進む子が増えていると聞きます。応募作品を見ていると、描く力だけでなく、思考力や観察力、そして「感じる力」がどんどん豊かになっているのを実感します。私自身も刺激を受けました。紙の上でここまで世界を作り出せることに、毎年驚かされます。これからも、自分が見たもの・感じたものを信じて、自由に描き続けてほしいです。
しずちゃん:今回も、どの作品も本当に楽しかったです。絵の見方がわからない人でも、感じることは誰にでもできます。だから、上手い・下手よりも、まずは描くことを楽しんでほしい。中高生の今しか描けない絵があると思います。時間がたてば、同じ気持ちでは描けなくなる。その瞬間を描くことこそが宝物です。

——最後にコンテストにチャレンジしたいと思う中高生にメッセージをお願いします。
林さん:毎年、皆さんの作品を見て感じるのは、「描くことの楽しさ」がちゃんと画面に出ているということです。それが何よりも大事だと思います。技術はあとからいくらでも身につきます。でも「描きたい」という気持ちは、若い今だからこそ強くもてるものです。紙の上で、自分の感じたことや、好きなものを素直に表現してほしい。その積み重ねがきっと力になります。毎年言っていますが、描くというのは「自分と向き合うこと」です。他人と比べず、自分が楽しいと思える描き方を大切にしていってください。

中村さん:今年もすばらしい作品がたくさんありました。年々、みんなの絵がうまくなっているのを感じます。でも「うまさ」を競うだけがこのアワードの目的ではありません。地元をどう見て、どう感じたか――それを自分の言葉や線で表現することがいちばん大事です。「正しさ」よりも「自分らしさ」を大切にしてください。他の人がどう描くかではなく、「自分がどう見たか」を描く勇気を持ってほしいです。そんな絵は誰かに伝わります。その上で 「あなたの地元っていいね」と言われたら最高ですよね。描くことを通して、 みんながみんなのふるさとを誇りに思えるようになってほしいと思います。
しずちゃん:みんなの絵を見ていると、本当に楽しいです。一枚一枚に「好き!」とか「楽しい!」とか「びっくりした!」とか、そういう気持ちがちゃんと描かれています。絵は、上手・下手よりも気持ちが大事だと思います。うまく描こうとしすぎず、見たまま感じたままを描いてほしいです。それから、今の自分の気持ちは今しか描けません。来年になったら、もう同じ絵は描けない。だからこそ、今の「好き」を思いきり紙に描いてください。私もみんなの絵から元気をもらいました。描くって楽しいことなんだって、あらためて思いました。
キャンパスアートアワードは、「描くことの喜び」を通して、自分自身や地元を見つめ直すきっかけを与えてきました。今年で11年目。これまでに多くの受賞者が美術大学へ進学したり、地域のデザイン活動に関わるようになったりと、次のステージへ羽ばたいています。
「このアワードが、若い人たちにとって、自分を信じる第一歩になればうれしいです」と中村さん。「どんなに時代が変わっても、描く楽しさは変わりません。その気持ちを大切にしてほしいです」と林さん。「見てくれる人がいる、応援してくれる人がいる。それを感じながら、これからも自由に描いてほしいです」としずちゃん。
子どもたちの感性が紙の上にきらめき、それを見守る大人たちが心から称える。そんなあたたかな輪が、今年もまた広がりました。描くことの喜びを胸にキャンパスアートアワードは、また新しい一年へと歩みを進めます。






