2021.02.02
働き方が変わる!ABW時代のリュックをつくる~THIRD FIELD「スタンドバックパック」開発ドキュメント~
時間や場所に制約されない働き方をする人が増えてくる中で、デジタルデバイスをはじめ仕事に必要なミニマムな道具一式をスマートに収納できるバッグ、PCケース、ポーチ等のシリーズ「THIRD FIELD(サードフィールド)」。その中核商品である自立するバックパック「スタンドバックパック」の開発はコワーキングスペース「WeWorkなんばスカイオ」を舞台に行われました。
場所に縛られないな働き方(Activty Based Working:ABW)をより快適に、より効率的にサポートする目的で開発されたのが、「THIRD FIELD(サードフィールド)」のシリーズ。デジタルデバイスをはじめ仕事に必要なミニマムな道具をスマートに収納できるバッグ、PCケース、ポーチ等をそろえたシリーズです。
今回はその中核商品である「スタンドバックパック」ができるまでをご紹介します。開発はコワーキングスペース「WeWorkなんばスカイオ」を舞台に、サードプレイスワーカーの方々に参加していただく異業種コラボレーションから始まりました。
今回、ご紹介する商品はこちら
登場人物
(本開発ストーリーは2020年12月末にWeWorkなんばスカイオ内で実施しました。感染症対策の観点から全編マスク着用でお届けしますことご了承ください)
▼コクヨ
伴 和典 ステーショナリー事業本部 商品企画部。社会の役に立つ商品企画を日々追求するマーケター。気配りの細やかさと真面目さは事業部内随一。 |
藤木 武史 ステーショナリー事業本部クリエイティブプロダクツ開発部。オフィス家具からステーショナリーまで幅広い商品の開発経験も持つ、商品開発のプロフェッショナル。その行動力は社内でも一目置かれる存在。 |
木下 郁 ステーショナリー事業本部クリエイティブプロダクツ開発部。ステーショナリー開発経験、中でも特に縫製関係商品のプロフェッショナル。リュックの実設計者としてプロジェクトに参画。 |
▼WeWorkなんばスカイオ
鷲田 諒さん 東京のITコンサルティング会社勤務(当時)。関西における拠点づくりの先鋒としてWeWorkなんばスカイオに単独入居。IT技術者の採用を中心に本業を展開しつつも、新天地・大阪での幅広い人脈づくりに取り組む。 |
象印マホービン株式会社 新事業開発室 マネージャー。自社商品をベースにしつつ、新たな市場を開拓する「コト」づくりの責任者。新たな出会いやアイデアを求め、敢えて大阪市内の本社を離れ、WeWorkなんばスカイオ内に拠点を置く。 |
株式会社JTBコミュニケーションデザイン 西日本営業推進局 プランニング&ソリューション課 プランナー。「今より少し社会をやさしく、おもしろく」をモットーに、自治体・企業問わず、様々な課題解決のプランニングを行う。その一環として、WeWorkを通じた多様なステークホルダーとの協業による、新たな価値創造を目指している。 |
プロジェクト前夜
米国で急成長したWeWorkの日本初進出は2018年。事業アイデアの交流や人脈形成ができるという付加価値が、企業の新規事業部門や起業を志す人々に注目される中、藤木は考えていた。「長年、オフィスを主戦場にしてきたコクヨにとって、これはチャンスか、脅威か」。
少なくともWeWorkの実態とそこで働く人についてもっと知る必要があると考えた藤木は、2019年夏、WeWorkへの単独潜入を開始。WeWorkで働くワーカーの働き方や持ち物について観察を始めていた。
同じころ、東京品川のコクヨオフィスにいた伴も、藤木と同様の危機感を感じていた。これからの中核を担うミレニアル世代において、働く場所の多様化はもっと進み、ワークツールの主体はデジタルデバイスに代わっていく中、自分たちも「文具」の枠を超えていくべきではないか。
そこで伴が目を付けたのは、デジタルデバイス自体ではなく、それらを「持ち運ぶ」シーン。たとえば通勤リュック、ガジェットポーチ、PCケース。競合ひしめく中においても、「これからの働き方に最適な商品開発ができれば、使い手の心を掴める」と考えた。
一方、この頃すでに「WeWorkなんばスカイオ」で活動を始めていた鷲田さんは、WeWorkで活動するメンバー主導の交流機会をもっと増やしたいと考えていた。WeWorkや大企業主導のイベントに受け身的に参加するだけではなく、自分たちで案件を企画し、メンバーを募ってコラボレーションのきっかけを生みだす仕組みづくりをしたい。その想いに岩本さんも賛同し、「イベント運営委員会」というグループを立ち上げて活動を模索していた。
2019年6月からWeWorkで働き始めた藤木が、「リュック派」の多さに気づき、なおかつ、リュックを床に置いていたり、椅子を占領している様子を見て、自立型リュックを考え始めたちょうどその頃、社内の商品企画会議を突破した伴が、縫製商品の開発経験がある藤木に「リュックをやってみたい」と相談。思惑がぴったり一致した。
サードプレイスにおいては、意外とリュックの置き場が少ない!?
早速、行動派の藤木がWeWork内の掲示板に「リュックの開発を一緒にやりませんか」と投稿したところ、鷲田さんや岩本さんが「まさに自分たちが欲していた案件」と即反応。こうした「タイミングの妙」が重なり、コクヨの縫製商品のプロの木下も新たに参加し「リュックを創ろうプロジェクト@WeWork」はついにスタートしたのだった。
当時、藤木がプロジェクトメンバーの募集告知をしたWeWorkの掲示板。
プロジェクト創設の引き金となった。
第1回:リュックを深く知る
2019年7月、「イベント運営委員会」の告知によってプロジェクトに集まったのは、業種・職種、年代・性別、いずれもバラバラの約10名。JTBコミュニケーションデザインの齊藤さんもその中の一人だった。
「コクヨさんという慣れ親しんだ会社のモノづくりに参加できるのが純粋に楽しみでしたし、会社の枠を超えたオープンなモノづくりをどうやってやるのか、そのプロセスにも興味を感じていました」。
この日、藤木と木下が用意したのは、市場に出回っている数々の「通勤用リュック」のデザインや機能を比較した資料。これを呼び水として、集まったメンバーそれぞれがリュックに対する要望や、今使っているバッグ/リュックの良い点・悪い点を付箋に書き出した。
第1回アイデアソンの成果
収納、中身へのアクセス性、持ち運び時のデザイン、背負いやすさ、価格・・・それぞれの視点での意見が飛び交った。
10人が出した意見を藤木がその場でグルーピングし、新しいリュックが備えるべき要件のアウトラインをあぶりだす作業は「部活動のようですごく楽しかった」と鷲田さん。「それとそれを同じグループにまとめるんだ、とか、こんな風にして意見を引き出すことができるんだ、とか、プロジェクトの議論そのものが新鮮だった」と齊藤さんも話す。
当時、通勤リュックといえば男性主導の商品だったので、逆に女性の意見はとても新鮮でした。たとえば、藤木さんが当初から考えていた『自立する』というポイントについても、女性からするとそもそも床に置きたくない、と。なぜならリュックベルトの長さ調整部分が汚れるから。確かに、自分自身も仕事相手のカバンってそういえば結構見てるな、と思い当たりました。紐が汚れている人に仕事を頼むのは躊躇するかも(鷲田さん)
今でもよく覚えているのは、毎日使うリュックなので安過ぎるものはイヤだ、という意見。メーカーにいると『消費者は安い方がうれしいに決まっている』と決めつけてしまいがちだけど、リュックはいわば仕事の『相棒』。安すぎると逆に嫌だ、という意見は僕にとっては新鮮でもあり、よく考えると納得感もありました。このプロジェクトにおいてとても重要な意見だったと思います(岩本さん)
私自身は当時使っていたリュックにそこまでのこだわりを持っていなかったんです。ただ何となく店頭で、ベストじゃないけど、ベターなものを選び、特に考えずに使ってきた自分の視点の乏しさを実感しました。モノを創る人の目の付け所を学びました(齊藤さん)
この日は藤木が事前に用意した様々なメーカーの通勤リュックをメンバーそれぞれに割り振り、実際に使ってもらうことをお願いして散会。
第2回:リュックを使って知る
第2回ディスカッションでは、前回割り振りした通勤リュックを1ヵ月ほど実際に使った結果を共有した。
「モノが入って膨らんでしまうようなデザインはビジネスの現場では絶対使いたくない」という鷲田さんが試したのは、PC周辺機器メーカーがつくった上下二気室設計のリュック。
ひとつひとつの機能やデザインに、『こう使ってほしい』というメッセージが感じられたところがすごく良い商品だと思った。僕は中途半端に使い方を委ねられるよりも、作り手の意図が伝わる商品の方が魅力的だと感じることに改めて気づきました(鷲田さん)
「作り手の意図が伝わる商品」については、齊藤さんも同じ意見。理由は「『ここにはこれを入れるべきである』と決まっている方が悩んだり探したりしなくて済むから」。
私はどうしても持ち歩くモノが多くなりがち。何でも入ってしまうリュックよりも、細かく収納場所が決まっている方が断然すっきりします(齊藤さん)
他方、岩本さんが試したのは、アウトドアメーカーが開発したビジネスリュック。
見た目のデザインに『いかつさ』がある割に、バッグのファスナーが途中までしか開かなかったり、変な空洞ができてしまって中のモノが隠れてしまったり、アクセスのしやすさに課題あったり等々、感じたことを、詳細まで藤木さんに伝えました(岩本さん)
当時、岩本さんが藤木に送ったリュック試用後のフィードバック
第3回:試作品について語り合う
第3回目は、前回持ち寄った他社品の使用経験を踏まえた上で作られた試作品についての意見交換を行った。
プロジェクトのメンバーにとって、試作品を試す経験は貴重だったそう。
使い手の意見をすべてモノに落とし込むことが必ずしも良い結果になるとは限らない。でも、使い手として絶対に妥協したくないポイントもありました(岩本さん)
今回は、試作品を見せてもらうことで、そのあたりの刷り合わせがしっかりできたことはすごくよかった。今回のリュックに込めるメッセージが明確になっていったように感じます(鷲田さん)
会を重ねるごとに、リュックはこうあって欲しい、自分たちがつくるリュックを最高のものにしたい、という思いでプロジェクトの一体感は高まっていく。
メンバーの議論からあぶりだされた今回のリュックになくてはならない3要素は、中身の取り出しやすさと、二気室設計、そして自立。
一方、用意された一次試作は、自立する設計ではあるものの、バッグ内部の二気室設計は実現できておらず、サイドポケットのみ。この日のディスカッションは二気室の必要性、および、リュックの自立機能と「床に置くとベルトが汚れる問題」の解決策だった。
プロジェクトメンバーがあぶり出した今回のリュックの3要素
第3回のプロジェクトMtgで共有された一次試作。少し小さめ、かつ二気室設計はまだ搭載されず。
第4回:改良版を試す
この日WeWorkに持ち込まれたのは一次試作に対する意見を反映した二次試作。
二次試作のディメンション(大きさ)
二次試作は、一次試作に比べ、高さを3センチ、奥行きで1センチ、大きなサイズになった。この日は全体サイズに対する意見、二気室設計の使い勝手の検証、ベルト収納について、詰めの意見交換となった。
二次試作では二気室設計を搭載
僕自身は二気室設計は不可欠だと思っていたので、実現された二次試作を見てすごくうれしかった。あとは『ベルトじゃらじゃら問題』。最初のディスカッションから課題として出ていたので、スーツケースに乗せて使えるキャリーオンバッグにもなる設計、かつ、肩ベルトが中に仕舞えるという点は、今回のコンセプトになくてはいけない機能だと思いました(鷲田さん)
完成品お披露目
最後のディスカッションから1年以上が経った2020年12月、コロナ禍を経て働き方が様変わりした中で、プロジェクトメンバーへの完成品お披露目式が行われた。
完成品を手に取ったメンバーからは、
すっきりしたデザインの中にもアクセスのしやすさに対する工夫が詰まっている。使っていくほどに自分なりの使い方が分かってくるリュックになったと思う。サイドに水筒用のポケットがあるのも、僕としてはとてもうれしいポイントです(岩本さん)
真っ黒ではない、濃紺でもない微妙な色合いがすごくいい!凛として立つ、スーツにも合うデザイン、なおかつ持ち手が2本ついているところがとても気に入りました。持ち手が1本だとどうしても手に持った時に角度がついてしまって格好悪いと前から思っていましたが、今回のバックパックは手に持った姿もスマートに見える。気に入りました!(鷲田さん)
奥行きが深すぎず浅すぎず、とても使いやすいです。コロナ禍でタオルや消毒液など持ち運ぶものがさらに増える中で、本当に必要なモノだけを、抜群のアクセス性で入れられる。こだわりの詰まったモノづくりに参加できた経験はこれからの自分の仕事にもきっと生きると思います(齊藤さん)
さて、いかがでしたでしょうか。
ちなみに今回のプロジェクトの様子は動画でも記録。会社を飛び出して商品開発を行うのはコクヨにとっても初のチャレンジ。実際、商品を最も使っていただきたい方々との共同開発を通じて、社内だけでは生まれなかったアイデアが詰まった商品が生まれることになりました。
次回は、シリーズ全商品の使い心地をマガジン編集部が体験レポートです!
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